30年前ぐらいに「褒める信仰」が教育界で大流行。教育関連の講演をする偉い人たちが口をそろえて「褒めろ褒めろ」と大合唱していた。

1994年にデビューしたテニス選手のマルチナ・ヒンギス選手が世界一になれたのは母親が褒め続けたおかげだというマニュアルが教育界に広がり、褒めると伸びると信仰のように崇める人が増えた。でも何のスポーツでも世界で競えるような選手はまず身体的に恵まれていることが多い。そもそも、世界一になれる人間がどれだけ少ないか、何事にもある例外?(←外的要因が効果をもたらすことは、エンハンシング効果という)冷静に考えれば褒めれば伸び続けるなんて、簡単なものではないことは分かるはず。マルチナヒンギス選手の心の中で、母の誉め言葉は単なる副賞であって、本当に重要なことではなかったのではないか。

大嫌いだった60歳の裸の王様には校内研究会で「褒めればいいってわけじゃない」という発言をしたことで40分にわたって全職員の前で説教され続けた。マルチナヒンギスの母になりたい保護者にもずいぶん悩まされた。そんな私にとって、アンダーマイニング効果の実在性を脳科学的に示す玉川大学脳科学研究所のこの研究は、60歳の裸の王様のくだらない口撃を撃退してくれる、神様みたいな存在だった。この研究は、自発的に取り組む課題に対して金銭報酬を与えることで内発的動機が低下することを脳科学的に確認したものだ。

立場の強さだけを利用して、長時間説教したって、真実は変わらない。それが科学だ。

参考文献 http://tamagawa.ac.jp